例えば、ある人が大人気のアイドルグループのAさんを「推して」いるとします。このファンはAさんに対して非常に強い愛着を持ち、心理的に「自分のもの」と感じています。このような感覚は「心理的所有感」と呼ばれます。
心理的一体感と仲間意識
このファンがAさんに対して感じる「心理的一体感」は、自分の人生においてAさんが重要な存在であり、自分の一部のように感じることです。例えば、「Aさんの応援が自分の生きがい」と考え、同じアイドルを推す他のファンとも自然に「仲間」として協力する姿勢を持ちます。この「仲間意識」によって、ファン同士で情報を交換したり、イベントに一緒に参加したりすることで、ウェルビーイング(幸福感)が高まります。
具体例: AさんのファンであるBさんとCさんがコンサートで出会い、「Aさんのここが素晴らしい!」という話題で盛り上がり、共通の趣味を持つ仲間として絆が深まることで、二人ともより幸福感を感じるようになります。
心理的責任感と競争意識
一方で、ファンがAさんを「自分が育てなければならない」と考えた場合、「心理的責任感」が強くなります。つまり、自分がAさんを支え、人気を高める役割があると感じるのです。この責任感が強くなると、他のファンとの間に「競争意識」が生まれます。「自分こそがAさんを一番応援している」「他のファンよりも詳しく、深い愛情を持っている」と感じ、他のファンをライバル視するようになります。
具体例: Bさんが、CさんがAさんについて自分よりも詳しいことを知った時、「自分こそが本当のファンだ」と感じて、Cさんをライバル視し、仲良くするのが難しくなる。この競争意識によって、Bさんはストレスを感じ、推し活を続けるモチベーションが下がってしまいます。
研究の結果
論文によると、「仲間意識」はファンのウェルビーイングと推し活の継続にポジティブな影響を与える一方で、「競争意識」はウェルビーイングには良い影響を与えるものの、推し活を続ける意欲を下げることが明らかになりました。つまり、同じアイドルを応援するファン同士でも、仲間として協力し合う方が長期的には幸福であり、推し活も続けやすいということです。
このように、ファンの心理的所有感が他のファンとの関係や、応援活動の継続にどう影響するかが、この研究の具体的な示唆です。
参考文献
アイドルに対するファンの心理的所有感とその影響について
― 他のファンへの意識とウェルビーイングへの効果 ―